整然と列を成して講堂を退出する集団から慎重に抜け出す。多少不審に思われたかもしれないが、幸いにも呼び止められることはなかった。
「ふっ……はぁ、はぁ……ッ」
込み上げる嘔吐感に咄嗟に口元を覆う。ずるずると座り込んだのは丁度講堂の裏手の辺りだった。講堂を囲む塀代わりのフェンスには鬱蒼と蔦が蔓延り、その向こうには演習にも使われるという森が広がっている。長い前髪の隙間から何の感慨もなくそれを眺め、呉葉は剥き出しのコンクリートに凭れかかった。無機質なその冷たさが人いきれで火照った身体には有り難い。過ぎ去らない吐き気に、これだからと呉葉は歯噛みした。自身の苛立ちに反応するように頭の中でもぞりと何かが蠢く。「アレ」が見ている。不甲斐ない自分を嘲笑っている。そう思うと、不快な気分がますます募った。不安定になる精神に誘われるように「アレ」が意識面に浮上する。
「重力付加(タイト)1、2、3……」
「司令部、応答願います」
「司令部、応答願います」
自己嫌悪に打ちひしがれながら梓は歩いていた。榛色をした大きな瞳には涙が溜まっている。普段なら何とか堪えるところだが、独りきりの上に、自分のあまりの情けなさに呆れるどころかむしろ絶望を抱いている現状では、溢れる涙を留める理由が見つからなかった。何が悲しくって、童話の主人公よろしく森を彷徨わなければならないのか……。
「情けないっす……ぐすっ。この歳にもなって、道に迷うなんて」
『お兄ちゃんはぼんやりっこだから、学校についたら何よりも先に頼りになるお友だちをつくるのよ』
この孤島の学園に来る前に妹から届いた手紙の一文が思い出され、梓は、はぁと溜息をついた。「ユミ、きみは本当に賢い子っすよ」
ぱらっと見ただけの島内案内図を思い出しながら梓は足を速めた。このままでは入隊式に間に合わなくなるかもしれない。それはまずい。確か、会場の第一講堂は湖畔に臨んでいたはずだ。ならば水辺に出れば何とかなる。大丈夫、たとえ講堂と反対側に出ようが、梓には最短距離を行く術があるのだ。
「と、とりあえず、湖を目指すっす! 確か、島の中央に位置してたから……こっちすね!」
「逆、湖はあっち」
「ひえぇぇッ?!」
(神楽椿) 提案に乗っかる形でリレー小説に参加。世界観を考えてくれるような素晴らしい相棒と共に執筆を頑張る所存でございます。どうぞ、生暖かい眼で見守ってやってください。