2008.5.18
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7(By kagura)
 
 
 
「やっぱり、外はいいな」
 
呉葉が笑う。残虐性を隠そうとしない、暗い瞳で。思わず、一歩後退した葵は事態を把握しようと必死だった。何故、目の前で苦しそうに喘いでいた少年が急に、笑みを浮かべて自分の前に立っているかを。
葵はすぐにわかりそうに無い事を悟ったのか、自らの能力を発動すべく相手の目を見据え、意識を集中させる。
 
『心眼(シークアイ)』
 
心の中で、静かに呟く。ノイズ交じりに聞こえていた音(こえ)が鮮明に聞こえ始める。
 
『グレイ、どうするつもりなんだ!?』
『うるさい、お前の知った事じゃないだろ』
 
(彼の中に二つの声が聞こえる。もしかして、二重人格?)
葵がそう考えていたときだった。緩慢な動作で呉葉、いやグレイは視線を葵の方にやる。葵は、びくりと肩を震わせるが、能力の発動は続けていた。
 
『とりあえず、こいつを叩きのめすかな』


 

整然と列を成して講堂を退出する集団から慎重に抜け出す。多少不審に思われたかもしれないが、幸いにも呼び止められることはなかった。

「ふっ……はぁ、はぁ……ッ」

込み上げる嘔吐感に咄嗟に口元を覆う。ずるずると座り込んだのは丁度講堂の裏手の辺りだった。講堂を囲む塀代わりのフェンスには鬱蒼と蔦が蔓延り、その向こうには演習にも使われるという森が広がっている。長い前髪の隙間から何の感慨もなくそれを眺め、呉葉は剥き出しのコンクリートに凭れかかった。無機質なその冷たさが人いきれで火照った身体には有り難い。過ぎ去らない吐き気に、これだからと呉葉は歯噛みした。自身の苛立ちに反応するように頭の中でもぞりと何かが蠢く。「アレ」が見ている。不甲斐ない自分を嘲笑っている。そう思うと、不快な気分がますます募った。不安定になる精神に誘われるように「アレ」が意識面に浮上する。

 

 
 
 
「着いた」
 
了の呟いた一言に、現実に引き戻された梓は慌てて時計を確認し、胸を撫で下ろした。
(よかった。ギリギリ間に合った……。これも御剣のお陰っす。ああ!お礼言ってない!!)
「あの、ありがとうっす。御剣くんが来てくれなかったら、自分、遅れてたっす」
素直にお礼を述べる梓に、了は眼を細めて表情を和らげた。
 
「気に―――」
「君たちー、ゆっくりするのは着席した後の方がいいと思うよ?」
 
気にするな、と言うつもりの了だったが、第三者によってそれは阻まれた。にこり、と笑みながら艶夜が聞き惚れるような美声で二人に対して言葉を紡いだ。了は声の主を静かに見据え、梓は突如聞こえた楽器の名器による旋律のような声に身を硬くした。
 
「そうだよ。御剣君、姫松君、急いだ方がいい」
 
穏やかな声で、二人を促すのは藤林だ。梓と了は教官の姿に気付くと、敬礼をした。
 
「はい、藤林教官!」
「了解」
 
一人は弾かれたように返事をし、一人は教官に対する適切な返答を返すと、会場へと足を踏み入れた。
目の前の敵に対峙して感じるのは、僅かな昂揚感。今にも襲い掛かってきそうな敵を見ると、ぞくぞくする。こいよ、挑戦的な視線を敵に送る。狗型のソレが俺の視線に応えるように低く唸り、地を蹴り上げてこちらに向かって牙を剥こうとする。俺はそれを悠然と構え見守る。

「重力付加(タイト)1、2、3……」

俺が呟いた瞬間、狗は地面に叩きつけられた。重力を掛けたのだから、当然だ。あの狗はかつて感じたことの無い、自らの重みに耐えられないのだ。ぐっと、四肢に力を籠めて立ち上がろうとするが、力が入らないらしく地面にへたり込んでいる。当然だ。動物である以上、重力に逆らえはしない。
腰に挿した日本刀を抜く。光を浴びて妖しく光る刀身が美しく、更に気分が高揚する。刀を抜くと、無性に切り刻みたくなる。

「重力軽減(ルーズ)1」

俺はその刃に指を這わせながら、呟く。重力を解かれた刀が軽くなったのを確認してから狗に向かって跳躍し、その体に刀を容赦なく突き立てた。断末魔の叫びが辺りを木霊する。脆いな。
狗が動かなくなったのを確認してから、肩につけていたトランシーバーに手を伸ばす。

「司令部、応答願います」
『こちら司令部。どうした?』
Sクラス、鬼目。A地点。敵一体殲滅完了」
『……了解。そちらに処理班を寄越す。警戒を怠るな』
「了解」

辺りに眼を向けると、血の匂いに寄せ付けられたのか数匹の狗が獰猛な眼をぎらつかせながら、こちらにゆっくりと歩いてくる。それを横目で見て、俺は再びトランシーバーに手を伸ばした。

「司令部、応答願います」
『こちら司令部。まだ何かあるのか?』
「処理班、待ってください。新たな敵が現れました。殲滅次第連絡をします」
『了解』

刀を握り直し、敵に対峙する。覚めやらぬ興奮を糧に、敵を切り刻む。
容赦など、するものか。此処は戦場。甘い考えは死に直結する。俺は、そんなヘマはしない。生き残る為、俺は今日も刀を振りかざす。その軌道に迷いなど、ない。






自己嫌悪に打ちひしがれながら梓は歩いていた。榛色をした大きな瞳には涙が溜まっている。普段なら何とか堪えるところだが、独りきりの上に、自分のあまりの情けなさに呆れるどころかむしろ絶望を抱いている現状では、溢れる涙を留める理由が見つからなかった。何が悲しくって、童話の主人公よろしく森を彷徨わなければならないのか……。

「情けないっす……ぐすっ。この歳にもなって、道に迷うなんて」

『お兄ちゃんはぼんやりっこだから、学校についたら何よりも先に頼りになるお友だちをつくるのよ』

この孤島の学園に来る前に妹から届いた手紙の一文が思い出され、梓は、はぁと溜息をついた。「ユミ、きみは本当に賢い子っすよ」

ぱらっと見ただけの島内案内図を思い出しながら梓は足を速めた。このままでは入隊式に間に合わなくなるかもしれない。それはまずい。確か、会場の第一講堂は湖畔に臨んでいたはずだ。ならば水辺に出れば何とかなる。大丈夫、たとえ講堂と反対側に出ようが、梓には最短距離を行く術があるのだ。

「と、とりあえず、湖を目指すっす! 確か、島の中央に位置してたから……こっちすね!」
「逆、湖はあっち」
「ひえぇぇッ?!」

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プロフィール
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Mao & 神楽椿
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女性
自己紹介:
(Mao) このリレー小説のいいだしっぺ。大まかな世界観を担当しました。それ以外では影のような存在です(笑)。文章の方は幾分拙いですが、よろしくお願いします。

(神楽椿) 提案に乗っかる形でリレー小説に参加。世界観を考えてくれるような素晴らしい相棒と共に執筆を頑張る所存でございます。どうぞ、生暖かい眼で見守ってやってください。
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